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論文16「水素は脳虚血再灌流障害と認知能力を改善する」

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Hydrogen-Rich Water Improves Cognitive Ability and Induces Antioxidative, Antiapoptotic, and Anti-Inflammatory Effects in an Acute Ischemia-Reperfusion Injury Mouse Model

水素は脳虚血再灌流障害と認知能力を改善する

 

 

(10秒で読めるまとめ)

脳梗塞などで起こる脳虚血再灌流障害(一度詰まった脳の血管に血流が再開したときに起こる細胞死)を再現したネズミに、水素水を飲ませた結果、水素が酸化ストレスを抑えることで脳の細胞死を大きく減退させ、脳障害と認知能力を改善することがわかった。

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

 水素水を飲むことで、脳の虚血再灌流障害と認知能力が改善することがわかった。

◆ポイント

·  脳の血管が詰まり血流(酸素供給)が止まると、脳虚血(酸素不足)が起こり、虚血となった部分に血流を再開させると、再開した酸素供給が酸化ストレスとなり細胞死を増悪させ、認知症の原因となる深刻な脳障害を進行させる(脳虚血再灌流障害)。
·  脳虚血再灌流障害を再現したネズミに、水素水または水を5週間飲ませ、脳障害の程度や認知能力を比較した。
·  水素水を飲んだグループでは、脳の運動・記憶・認知機能を司る部分(線条体、大脳皮質、海馬)における細胞死誘発因子(TNFα)の濃度が著しく低く、細胞死が起こる兆候(核濃縮細胞)も減退した。(論文中の図表参照)
·  行動実験により、水素水を飲んだグループの認知機能の回復が示された。(論文中の図表参照)

 

(原文と翻訳

Abstract

Background: Cerebral ischemia and its reperfusion injury facilitate serious neurodegenerative diseases such as dementia due to cell death; however, there is currently no treatment for it. Reactive oxygen species is one of the many factors that induce and worsen the development of such diseases, and it can be targeted by hydrogen treatment. This study examined the effect of molecular hydrogen in cerebral ischemia-reperfusion injury, which is emerging as a novel therapeutic agent for various diseases.

【背景】脳虚血とその再灌流傷害は、細胞死による認知症などの深刻な神経変性疾患を進行させるが、現在それに対する治療法はない。活性酸素種はこのような病気を誘発・悪化させる要因の1つであり、水素治療の対象となる。この研究では、さまざまな疾患の治療薬として新たに登場した水素の脳虚血再灌流障害における効果を調べた。

 

Methods: Ischemia-reperfusion injury was generated through bilateral common carotid artery occlusion in C57BL/6 mice. The test group received hydrogen-rich water orally during the test period. To confirm model establishment and the effect of hydrogen treatment, behavioural tests, biochemical assays, immunofluorescence microscopy, and cytokine assays were conducted.

【方法】C57BL/6 マウスの両側総頸動脈を閉塞して虚血再灌流障害を発生させた。試験対象は試験期間中、水素水を経口摂取した。虚血再灌流障害モデルの確立と水素の効果を確認するために、行動試験、生化学的アッセイ、免疫蛍光顕微鏡法、サイトカインアッセイを実施した。

 

Results: Open field and novel object recognition tests revealed that the hydrogen-treated group had improved cognitive function and anxiety levels compared to the nontreated group, while hematoxylin and eosin stain showed abundant pyknotic cells in a model mouse brain, and this was attenuated in the hydrogen-treated mouse brain. Total antioxidant capacity and thiobarbituric acid reactive substance assays revealed that hydrogen treatment induced antioxidative effects in the mouse brain. Immunofluorescence microscopy revealed attenuated apoptosis in the striatum, cerebral cortex, and hippocampus of hydrogen-treated mice. Western blotting showed that hydrogen treatment reduced Bax and TNFα levels. Finally, cytokine assays showed that IL-2 and IL-10 levels significantly differed between the hydrogen-treated and nontreated groups.

【結果】オープンフィールドテストと新規オブジェクト認識テストにより、水素治療グループでは、非治療グループと比べて認知機能と不安レベルが改善されることがわかった。同時に、HE染色により、ネズミの脳に示された核濃縮細胞が、水素治療後に減衰することがわかった。総抗酸化能とチオバルビツール酸反応性物質のアッセイにより、水素治療が抗酸化効果を誘発することがわかった。免疫蛍光顕微鏡検査により、水素治療をしたネズミの線条体、大脳皮質、海馬における細胞死の減少が明らかになった。ウエスタンブロッティングは、水素治療がBax・TNFα値を低下させることを示した。最後に、サイトカインアッセイは、IL-2とIL-10の値が水素治療グループと非治療グループの間で大きく異なることを示した。

 

Conclusion: Hydrogen treatment could potentially be a future therapeutic strategy for ischemia and its derived neurodegenerative diseases by improving cognitive abilities and inducing antioxidative and antiapoptotic effects. Hydrogen treatment also decreased Bax and TNFα levels and induced an anti-inflammatory response via regulation of IL-2 and IL-10. These results will serve as a milestone for future studies intended to reveal the mechanism of action of molecular hydrogen in neurodegenerative diseases.

【結論】水素治療は、認知能力を改善し、抗酸化・抗アポトーシス効果を誘導することにより、虚血とそれに由来する神経変性疾患の未来の治療戦略となり得る。水素治療は、BaxとTNFαの値を低下させ、IL-2とIL-10の調節を介して抗炎症反応を誘導した。これらの結果は、神経変性疾患における水素分子の作用機序を明らかにするための今後の研究の節目となるだろう。

 

Copyright © 2021 Dain Lee and Jong-Il Choi.

 

Conflict of interest statement: The authors declare that they have no conflicts of interest to disclose.

【利益相反】なし

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

移動距離(Moved distance):マウスの不安レベルや運動能力を反映する

馴染みのある物体(FO)の探索時間(Exploration time for FO):既知の環境や物体にどの程度興味を持っているか

新規物体(NO)の探索時間(Exploration time for NO):新規物体に対する好奇心や探索行動、および記憶力の評価

新規物体エリアへの進入回数(No. entry to NO/FO):新規物体にどれだけ関心を持っている/注意を払っているか

識別指数(Discrimination index):新規物体と馴染みのある物体を識別、記憶、区別できるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

抗酸化力

 

英語 日本語 説明
Cerebral ischemia 脳虚血 脳の動脈が詰まって血流が途絶え、脳に十分な血液と酸素が供給されなくなった状態。片方の手足のしびれやまひ、言語障害、運動障害などが現れる。継続すると、脳組織の一部の壊死(脳梗塞)が起こる。
reperfusion injury 再灌流傷害 脳梗塞や心筋梗塞などの急性期の治療において、血流が止まり虚血(低酸素)に陥った患部組織に血流を再開させたとき、酸素の供給が酸化ストレスとなり細胞死を引き起こすことで障害が増悪すること。
neurodegenerative diseases 神経変性疾患 脳や脊髄にある神経細胞のなかで,ある特定の神経細胞群(例えば認知機能に関係する神経細胞や運動機能に関係する細胞)が徐々に障害を受け脱落する病気。パーキンソン病やアルツハイマー病などの難病が含まれる。
dementia 認知症 さまざまな原因で脳の働きが悪くなり、記憶や思考などの認知機能が低下し、日常生活や社会生活に支障をきたすことをいう。
cell death 細胞死 生体を構成する個々の細胞の死をいう。アポトーシスとネクローシスの二つの概念に大別される。
アポトーシス 細胞の自然死のこと。危険な細胞の増殖を阻止し、細胞が構成している組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラム。アポトーシス異常はがんや神経変性疾患などの多くの疾患の原因となる。
ネクローシス 予期せぬ受動的な細胞死のこと。外傷あるいは炎症への反応、循環系の障害などによる大規模な細胞死。
Reactive oxygen species(ROS) 活性酸素種 体内でDNA、脂質、タンパク質、酵素などと反応し、脂質過酸化、DNA変異、タンパク質の変性、酵素の失活をもたらす分子群の総称。
脂質過酸化 原子・分子を酸化させ細胞に損傷を与える、脂質の酸化的分解反応のこと。
cerebral ischemia-reperfusion injury 脳虚血再灌流障害 虚血状態にある脳に血流が再開した際、毒性物質(活性酸素種)が大量に発生し、損傷を受けた組織で細胞死(ネクローシス)が起きることでかえって障害が増悪する状態。
bilateral common carotid artery occlusion 両側総頸動脈閉塞 気管や食道の外側を上へ向かって進む左右一対の動脈(総頸動脈)が閉塞(閉じてふさがること)した状態。
C57BL/6 mice C57BL/6 マウス 一般的な近交系(遺伝子型を固定するために近親交配を重ねて作り出した系統)の実験用マウス。他の系統より腫瘍の発生率が低く、いろいろな実験に使用されている。
behavioural tests 行動試験 自発的な活動性を中長期にわたって測定するテスト。
biochemical assays 生化学的アッセイ 実験動物や培養細胞などの生物材料を用いて、生物学的な反応を評価する方法。
assays アッセイ 検体の存在、量、機能的な活性や反応を、定性的に評価・定量的に測定する方法のこと。
immunofluorescence microscopy 免疫蛍光顕微鏡法 蛍光色素を標識したものを用いて、体液、組織などに存在する抗原または抗体を検出し顕微鏡で詳しく検査(生検)するきわめて感度の高い検査法。
cytokine assays サイトカイン 細胞間の情報伝達係で、免疫反応の調整を行うタンパク質のこと。熱を出す、炎症を起こす、血圧を上げるなど様々な反応を引き起こし、身体に浸入した細菌やウイルス等の異物を排除しようとする。
Open field tests オープンフィールドテスト マウスの新奇環境下での自発的な活動性を測定するテスト。新奇で広く明るい環境の中にマウスを入れ、一定時間自由に探索させる。
novel object recognition tests (NOR) 新規オブジェクト認識テスト マウスの記憶・学習面の調査のため一般的に使用される高度に検証された行動分析方法。記憶増強化合物の有効性や、その他の化合物の記憶への影響、遺伝学または年齢の記憶への影響などを試験できる。
hematoxylin eosin stain ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色) 医療診断で最も広く使用される主要な組織染色法の1つ。細胞核と核以外の組織. 成分を青藍色と赤色とにコントラストよく染め分ける単純な染色法で、細胞の全体像を把握する目的で使われる。
pyknotic cells 核濃縮細胞 細胞核の内容物が収縮して、濃い色の異常な塊になること。細胞の変性した状態。ネクローシスやアポトーシスを遂げる細胞に見られる。
antioxidant capacity 抗酸化能 活性酸素の働きを阻止する抗酸化物質の能力。
thiobarbituric acid reactive substance チオバルビツール酸反応性物質 脂質過酸化反応のスクリーニングとモニタリングに用いられる物質。
antioxidative effects 抗酸化効果 活性酸素の発生やその働きを抑制し、活性酸素そのものを取り除く働きのこと。
striatum 線条体 脳の中心部に位置し、神経細胞が集合する大脳基底核の主要な部分。運動機能(筋緊張の調整)への関与の他、意思決定などの神経過程にも関わる。
cerebral cortex 大脳皮質 大脳の表面に広がる、神経細胞の灰白質の薄い層。虚血などでダメージを受けやすく、海馬と共に記憶や学習などの高次機能に関連している。細胞死が起こると記憶障害や痴呆をもたらす。
hippocampus 海馬 短期記憶から長期記憶へと情報をつなげる中期記憶を担う脳の器官。神経細胞の結合をつくる役割を果たしており、萎縮したり破壊されたりすると、新しいことを記憶できなくなり、古い情報しか覚えていられなくなる。
Western blotting(WB) ウエスタンブロッティング タンパク質の特性を知るための基本的な実験手法。タンパク質混合物から特定のタンパク質を検出し抗原の多数の重要な特性を確認する。
Bax BAX さまざまな細胞活性に関与してアポトーシスの促進または抑制を行う調節因子として機能するタンパク質。
TNFα 腫瘍壊死因子α 炎症性サイトカインの一種。言葉のとおり不要な細胞を排除したり腫瘍をやっつけたりするが、大量に産生されると炎症を引き起こし、炎症を起こした細胞の細胞死(アポトーシス)も誘発する。
IL-2 インターロイキン2 サイトカインの一つ。免疫刺激と免疫調節の両機能をもち、免疫応答を調節して自己を攻撃しないしくみを維持するのに重要な役割を果たす。
IL-10 インターロイキン10 抗炎症性サイトカインの代表。サイトカインには珍しく、抑制の性質を持つ。直接的に免疫細胞の活性化を抑制したり、免疫反応を沈静化させる。
antiapoptotic effects 抗アポトーシス効果 アポトーシスを妨げる作用があること。
アポトーシス 細胞の自然死(細胞死)のこと。危険な細胞の増殖を阻止し、細胞組織をより良い状態に保つため、細胞自体に組み込まれたプログラム。

 

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