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論文80「急性膵炎に対する水素の保護効果」

https://h2-therapy.com/?attachment_id=14036

 

Pre-inhalation of hydrogen-rich gases protect against caerulein-induced mouse acute pancreatitis while enhance the pancreatic Hsp60 protein expression

急性膵炎に対する水素の保護効果

 

 

(10秒で読めるまとめ)

マウスを用いて、事前に3日間の水素吸入をさせた後に急性膵炎を誘発した結果、水素吸入により膵臓の酸化ストレス耐性が向上し、炎症反応が軽減され、急性膵炎の病態が軽減することがわかった。

 

(1分で読めるまとめ)

◆結論

予防的な水素吸入は、急性膵炎に対し保護効果を発揮する。

◆ポイント

·  急性膵炎は、暴飲暴食や飲酒などの負担により膵臓で膵液(消化酵素)が活性化し、膵臓が自分で自分を消化してしまう急性炎症で、重症化した4人に1人が死亡するという高い死亡率を伴うが、100年以上にわたり研究されているにも関わらず、予防法・治療法が不足している。
·  マウスに、水素ガス(42%H2 + 21%O2 + 37%N2)または空気を3日間吸入させた後、急性膵炎を誘発し、3つの観察点(1、3、5時間)において膵臓の病態や炎症反応を比較した。
·  水素群は、空気群と比較して、すべての観察点において、膵臓の病理学的スコア(浮腫、空胞化、浸潤、壊死など)が改善し、膵臓の消化酵素(アミラーゼ、リパーゼ)活性と炎症反応(IL-1、IL-6)も低かった。
·  水素群では、膵臓のグルタチオン(抗酸化物質)が大幅に増加し、MDA(酸化ストレスマーカー)が著しく減少した。

 

 

(原文と翻訳

Abstract

Background: Acute pancreatitis (AP) lacks targeted prevention and treatment measures. Some key points in the pathogenesis of AP remain unclear, such as early activation of pancreatic enzymes. Several recent reports have shown the protective effect of hydrogen on several AP animal models, and the mechanism is related to antioxidant activity. Heat shock protein 60 (Hsp60) is known to accompany pancreatic enzymes synthesis and secretion pathway of in pancreatic acinar cells, while role of hsp60 in AP remains a topic. Aim of this study was to investigate effect of hydrogen pretreatment on AP and the mechanisms, focusing on pancreatic oxidative stress and Hsp60 expression.

【背景・目的】急性膵炎(AP)には、予防手段と治療法が不足している。早期に膵臓酵素が活性化するという病因の重要な部分は未だにはっきりしておらず、最近のいくつかの報告では水素がいくつかのAP動物モデルにおいて保護効果を示し、そのメカニズムが抗酸化活性と関連していることが示されている。ヒートショックプロテイン60(Hsp60)は、膵腺房細胞内の膵臓酵素の合成と分泌経路に伴うことが知られているが、APにおけるHsp60の役割はまだ解明されていない。この研究の目的は、水素の予防処置がAPに及ぼす影響とそのメカニズムを調査することであり、特に膵臓の酸化ストレスとHsp60の発現に焦点を当てた。

 

Methods: 80 mice were randomly assigned into four groups: HAP group, AP group, HNS group, and NS group and each group were set 3 observation time point as 1 h, 3 h and 5 h (n = 6-8). Mouse AP model was induced by intraperitoneal injection of 50 μg/kg caerulein per hour for 6 injections both in AP and HAP groups, and mice in NS group and HNS group given normal saline (NS) injections at the same way as control respectively. Mice in HAP group and HNS group were treated with hydrogen-rich gases inhalation for 3 days before the first injection of caerulein or saline, while mice in AP group and NS group in normal air condition. Histopathology of pancreatic tissue, plasma amylase and lipase, plasma IL-1 and IL-6, pancreatic glutathione (GSH) and malondialdehyde (MDA), and Hsp60 mRNA and protein expression were investigated. Comparisons were made by one-way analysis of variance.

【方法】マウス80匹を無作為に4つのグループに割り当てた:HAP、AP、HNS、NS。各グループは1時間、3時間、5時間の3つの観察時間点を設定した(n=6-8)。AP群とHAP群の両方において、1時間ごとに50μg/kgのセルレインを6回腹腔内注射することで、マウスのAPモデルが誘発された。NS群とHNS群は、それぞれ同じ方法で、対照として生理食塩水の注射を受けた。HAP群とHNS群は、セルレインまたは生理食塩水の最初の注射の3日前から水素豊富なガスを吸入した。一方、AP群とNS群は通常の空気条件においた。膵臓組織の組織学的検査、血漿アミラーゼとリパーゼ、血漿IL-1とIL-6、膵臓のグルタチオン(GSH)とマロンジアルデヒド(MDA)、Hsp60のmRNAとタンパク質発現が調査された。比較は一方向の分散分析を行なった。

 

Results: The pancreatic pathological changes, plasma amylase and lipase activity, and the increase of plasma IL-1 and IL-6 levels in AP mice were significantly improved by the hydrogen-rich gases pretreatment, Meanwhile, the pancreatic GSH content increased and the pancreatic MDA content decreased. And, the hydrogen-rich gases pretreatment improved the Hsp60 protein expression in pancreatic tissues of AP mice at 1 h and 5 h.

【結果】水素豊富なガスの予防処置により、APマウスの膵臓の病理学的変化、血漿アミラーゼとリパーゼ活性、血漿IL-1とIL-6レベルの増加が有意に改善された。同時に、膵臓のGSH含有量が増加し、膵臓のMDA含有量が減少した。そして、水素豊富なガスの予防処置は、APマウスの膵臓組織におけるHsp60タンパク質発現を1時間と5時間で改善した。

 

Conclusions: Pre-inhalation of hydrogen-rich gases have a good protective effect on AP mice, and the possible mechanisms of reduced oxidative stress and the early increased pancreatic Hsp60 protein deserve attention.

【結論】水素豊富なガスの予防的吸入は、APマウスに対して良好な保護効果があり、酸化ストレス軽減と初期段階での膵臓Hsp60タンパク質の増加という可能性のあるメカニズムは注目に値する。

 

Keywords: Acute pancreatitis急性膵炎; Hsp60ヒートショックプロテイン60; Hydrogen-rich gases水素豊富なガス; Inflammation炎症; Oxidative stress酸化ストレス.

 

Conflict of interest statement: The authors declare that they have no conflict of interest. 【利益相反】なし

 

H2の事前吸入が血漿アミラーゼとリパーゼ活性に及ぼす影響

a 血漿中のアミラーゼ活性  b 血漿中のリパーゼ活性結  結果:平均 ± SEM (n = 6)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

H2の事前吸入が膵臓のGSH (グルタチオン) とMDA (マロンジアルデヒド) 含有量に及ぼす影響

a 膵臓組織中のGSH含有量  b 膵臓組織中のMDA含有量  結果:平均 ± SEM(n = 6)

 

 

 

 

 

 

英語 日本語 説明
Acute Pancreatitis 急性膵炎 膵臓(胃の後ろに位置する消化器官)の急激な炎症が起き疾患で、高い発症率と死亡率をもつ。局所的な損傷の場合もあれば、全身性の炎症反応症候群や遠隔臓器の機能不全を伴うこともあり、重症化すると多臓器に障害が起こり死にいたる。
pancreatic enzymes synthesis 膵臓酵素 膵臓が生産する消化酵素。膵臓酵素が膵臓内で過剰に活性化され、周囲の組織に対して炎症反応を引き起こす(膵臓が「自己消化」状態)状態が急性膵炎。
secretion pathway 分泌経路 膵臓で合成された酵素が細胞内で生成され、最終的に膵液中に分泌されるプロセスのこと。膵臓の主要な細胞であるアシナー細胞(acinar cells)で、アミラーゼ、リパーゼ、プロテアーゼなどの主要な酵素が合成される。
pancreatic acinar cells 膵腺房細胞 膵臓の外分泌部に存在して消化酵素などを産生分泌する細胞。膵臓全体の90%以上を占める。十数個の細胞で腺房とよばれる1つの構造単位を形成し、その内側の狭い間隙に膵液を分泌する。
Hsp60 ヒートショックプロテイン60 新しく合成されたタンパク質の正しい折りたたみを助け、タンパク質の誤った折りたたみや凝集を防ぐのに役立つ分子シャペロンタンパク質の一種。細胞のストレス応答に関与し、さまざまな細胞機能に寄与する。
caerulein セルレイン 実験的な膵炎モデルを誘発するために使用される薬物。濃度により膵臓で炎症細胞浸潤や組織破壊といった急性膵炎の症状を引き起こす。
normal saline (NS) 生理食塩水 主に塩化ナトリウムで構成される生理的な食塩水。生体内で安全に使用される非活性の溶液。
Histopathology 組織学的検査 膵臓の細胞や組織の変化を、顕微鏡などの手段を用いて調査すること。炎症、腫瘍、壊死、線維化などの変化を評価する目的で使われる。膵臓組織の正常な構造と比較して異常を詳細に検出できる。
plasma 血漿 血液の主要な構成要素の一つ。細胞、血小板、白血球などが浮遊する液体の部分を指す。構成は約90%が水、残り10%はタンパク質、ホルモン、栄養素、電解質、廃棄物などで構成され、体内の細胞や組織に酸素、栄養素、ホルモンなどを運搬する役割、免疫応答や凝固プロセス、代謝産物や廃棄物を体外に排出する役割を担う。
amylase アミラーゼ 膵液中に存在する、炭水化物(デンプン)分解酵素。主に唾液と膵液に存在する。
lipase リパーゼ 膵液中に存在する、脂肪分解酵素。リパーゼの過剰な放出が膵室の堵塞()を引き起こし、炎症反応を促進する。
IL-1、IL-6 インターロイキン-1、6 免疫系における炎症性サイトカイン。急性膵炎では炎症反応の一環として増加するため、炎症の進行状況、膵炎の重症度を反映する指標とされている。
glutathione (GSH) グルタチオン 細胞内での酸化ストレスの緩和に寄与する抗酸化物質。急性膵炎では膵臓組織の酸化ストレスが増加するため、グルタチオンの減少は膵炎における酸化ストレスの一因と考えられる。
malondialdehyde (MDA) マロンジアルデヒド 細胞膜の脂質過酸化の産物で、急性膵炎では組織損傷や炎症反応が進行することにより、細胞膜の過酸化が増加し、MDAの生成が促進される。
mRNA メッセンジャーRNA 遺伝子発現のための情報を持つ分子。炎症反応に関与する遺伝子の発現を見るために測定された。
protein expression タンパク質発現 病態生理学的なメカニズムの調査方法。炎症反応や組織損傷の進行に関与する特定のタンパク質の異常な発現を見るために、測定された。

 

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