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Lung Inflation With Hydrogen During the Cold Ischemia Phase Alleviates Lung Ischemia-Reperfusion Injury by Inhibiting Pyroptosis in Rats
移植前の肺を水素でふくらますと移植後に起こる肺機能障害が緩和される
(10秒で読めるまとめ)
ネズミのドナーの肺を移植前に水素でふくらませ、移植後に起こる肺の炎症・障害の程度や肺機能を調べた結果、水素が酸化ストレスを抑えて細胞死を減退させることで、移植後の肺機能障害を大幅に軽減させ、肺機能を改善することがわかった。
(1分で読めるまとめ)
◆結論
移植前の肺を水素でふくらませると、移植後の肺機能障害が大幅に軽減されることがわかった。
◆ポイント
· 一度血流(酸素供給)を止めたドナーの肺に、移植後血流を再開させると、再開した酸素供給が酸化ストレスとなり細胞死を増悪させ、肺機能障害が発生する(肺虚血再灌流傷害)。 |
· ドナー役のネズミの肺を移植前に水素または酸素で膨らませ、患者役のネズミに移植し、移植後の肺の状態について比較した。 |
· 水素で膨らませた肺を移植したグループでは、細胞死を引き起こす因子(Caspase-1 p20・GSDMD-N)の値が低く、酸化ストレスを抑える因子の値(SOD)と、肺活量を表す値(P-V curve values)が著しく高かった。(論文中の図表参照) |
(原文と翻訳)
Abstract
Background: Lung inflation with hydrogen is an effective method to protect donor lungs from lung ischemia-reperfusion injury (IRI). This study aimed to examine the effect of lung inflation with 3% hydrogen during the cold ischemia phase on pyroptosis in lung grafts of rats.
【背景・目的】水素による肺の膨張は、ドナーの肺を肺虚血再灌流障害(IRI)から保護する効果的な方法である。この研究では、冷虚血期に3%水素で肺膨張をさせることが肺移植片におけるピロトーシスに起こす影響をネズミで調べることを目的とした。
Methods: Adult male Wistar rats were randomly divided into the sham group, the control group, the oxygen (O2) group, and the hydrogen (H2) group. The sham group underwent thoracotomy but no lung transplantation. In the control group, the donor lungs were deflated for 2 h. In the O2 and H2 groups, the donor lungs were inflated with 40% O2 + 60% N2 and 3% H2 + 40% O2 + 57% N2, respectively, at 10 ml/kg, and the gas was replaced every 20 min during the cold ischemia phase for 2 h. Two hours after orthotopic lung transplantation, the recipients were euthanized.
【方法】実験用のネズミを無作為にsham、対照、酸素、水素のグループに分けた。Shamグループは開胸手術を受けたが肺移植は受けなかった。対照グループではドナーの肺を2時間収縮させた。酸素と水素グループではドナーの肺をそれぞれ40%酸素+60%窒素、3%水素+40%酸素+57%窒素のガスで10 ml/kg膨らませ、ガスは2時間の冷虚血期中20分毎に交換した。同所性肺移植の2時間後、移植を受けたネズミは安楽死させた。
Results: Compared with the control group, the O2 and H2 groups improved oxygenation indices, decreases the inflammatory response and oxidative stress, reduced lung injury, and improved pressure-volume (P-V) curves. H2 had a better protective effect than O2. Furthermore, the levels of the pyroptosis-related proteins selective nucleotide-binding oligomerization domain-like receptor protein 3 (NLRP3), cysteinyl aspartate specific proteinase (caspase)-1 p20, and the N-terminal of gasdermin D (GSDMD-N) were decreased in the H2 group.
【結果】対照グループと比較して、酸素と水素グループでは酸素化指数を改善し、炎症反応と酸化ストレスを減少させ、肺損傷を軽減し、圧容積(P-V)曲線を改善した。水素には酸素よりも優れた保護効果があった。さらに、ピロトーシス関連タンパク質の選択的NLRP3値、カスパーゼ-1p20値、GSDMD-N値は、水素グループで減少した。
Conclusion: Lung inflation with 3% hydrogen during the cold ischemia phase inhibited the inflammatory response, oxidative stress, and pyroptosis and improved the function of the graft. Inhibiting reactive oxygen species (ROS) production may be the main mechanism of the antipyroptotic effect of hydrogen.
【結論】冷虚血期に3%の水素で肺を膨張させると、炎症反応・酸化ストレス・ピロトーシスが抑制され、移植片の機能が改善された。活性酸素種(ROS)の生成を阻害することが、水素の抗ピロトーシス効果の主なメカニズムである可能性がある。
Keywords: cold ischemia phase冷虚血期; hydrogen水素; lung inflation肺の膨張; lung transplantation肺移植; pyroptosisピロトーシス.
Copyright © 2021 Zheng, Kang, Xing, Zheng, Wang and Zhou.
Conflict of interest statement: The authors declare that the research was conducted in the absence of any commercial or financial relationships that could be construed as a potential conflict of interest.
【利益相反】なし
英語 | 日本語 | 説明 |
lung ischemia-reperfusion injury (IRI) | 肺虚血再灌流障害 | 肺移植後において、虚血状態にあった肺に血流を再開したとき、活性酸素などさまざまな毒性物質が産生され、血管・肺組織に障害が起こること。 |
cold ischemia phase | 冷虚血期 | 臓器の摘出後から固定までの時間。 |
pyroptosis | ピロトーシス | 炎症+細胞死の形態。強い炎症シグナルに直面した細胞がしばしば、自身の細胞膜に穴を開け、細胞死に至ること。活性化されたカスパーゼ-1やガスダーミンによって引き起こされる。アポトーシスとは異なる細胞死。 |
アポトーシス | 細胞の自然死(細胞死)のこと。細胞自体に組み込まれたプログラム。ピロトーシスとは異なる細胞死。 | |
lung grafts | 肺移植片 | 移植される肺の組織のこと。 |
Wistar rats | ウィスター系ラット | 中型のアルビノラットで各種要因に対して優れた感受性があり、行動薬理・毒性・薬理・薬効試験など幅広い分野の研究に使用されている。 |
sham | 偽手術、擬似手術 | 麻酔と皮膚切開のみなどの見せかけの手術を行うこと。実際に手術をしたグループとの差異を見ることで手術の効果を証明することが目的。 |
orthotopic lung transplantation | 同所性肺移植 | もとの肺を取り去り、その場所に新しい肺を移植すること。 |
oxygenation indices | 酸素化指数 | 呼吸により得られた空気中の酸素を肺で血液に取り込み、酸素が血液に取り込まれる(酸素化)程度を示す指標。酸素化が悪いと、低酸素血症(頻呼吸・頻脈、不穏・興奮、見当識障害など)が起こる。 |
inflammatory response | 炎症反応 | 異物や死んでしまった自分の細胞を排除して、生体の恒常性を維持しようという反応。物理的刺激(火傷や凍傷など)や化学的な刺激(化学薬品接触など)、ウイルス感染などに対して起こす生体の防御反応の一つ。 |
oxidative stress | 酸化ストレス | 酸化反応(活性酸素が身体を酸化させること)により引き起こされる生体にとって有害な作用。日常生活の様々なことが要因となり起こる。 |
reactive oxygen species (ROS) | 活性酸素種 | 生体内でDNA、脂質、蛋白質、酵素などの生体高分子と反応し、脂質過酸化、DNA変異、蛋白質の変性、酵素の失活をもたらす分子群の総称。 |
脂質過酸化 | 原子・分子を酸化させ細胞に損傷を与える、脂質の酸化的分解反応のこと。 | |
pressure-volume (P-V) | 圧容積 | 肺の収縮性(硬さ)の指標。 |
nucleotide-binding oligomerization domain-like receptor protein 3 (NLRP3) | NLRP3 | 自然免疫系に関与し、炎症応答の活性化を担う細胞内タンパク質複合体。外と内からの様々な刺激により活性化し(活性酸素種によっても活性化される)、感染、糖尿病、動脈硬化、アレルギーなど様々な病態に関わる。 |
cysteinyl aspartate specific proteinase (caspase)-1 p20 | カスパーゼ-1 p20 | 炎症性カスパーゼ。サイトカインであるインターロイキン-1β(IL-1β)およびIL-18に作用して、炎症やピロトーシス(細胞死)を誘導する。 |
カスパーゼ | 細胞でのアポトーシス進行に必須のタンパク質分解酵素。細胞死や炎症を含む多数のプロセスで中心的な役割を果たす。 | |
N-terminal of gasdermin D (GSDMD-N) | ガスダーミンD N末端 | カスパーゼ1に切断されることでピロトーシス(細胞死)を引き起こす細胞質タンパク質。カスパーゼ1はガスダーミンDの有無により異なるプログラム細胞死を引き起こす。 |
antipyroptotic effect | 抗ピロトーシス効果 | ピロトーシスを抑える効果。 |
SOD | スーパー・オキシド・ディスムターゼ | 細胞内に発生した活性酸素を除去する抗酸化酵素。 |